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腎不全医療・透析医療

在宅血液透析入門

在宅血液透析とは

HHD(home hemodialysis:在宅血液透析)は、医師の管理の元、患者さん御自身が自宅で血液透析を行う治療法です。自宅に透析を行うための機器を設置して、患者さん自身が回路組立・穿刺・透析中の状態管理・返血等のすべての手技を行い、血液透析を行います。

腹膜透析は、お腹の中の腹腔という空間につながる管を 腹部に留置し、その管を使って、腹腔内に特殊な液を注入 することで透析を行う治療法です。腹膜透析も在宅血液 透析も自宅で透析を行うので、共に「在宅透析」ではありますが、仕組 みが全く異なる別の治療法です。

在宅血液透析のメリット

在宅血液透析には様々なメリットがあります。自宅で好きな時に透析を行えることは当然のメリットですが、最大のメリットは、十分な量の透析を行えるので予後の改善が期待できることです。透析は十分な時間をかけ、「緩徐」かつ「しっかり」と行う必要があります。これにより食事制限を緩めることもでき、栄養改善や体作りが図れます。自宅では自由な時間に透析ができるので、より十分な透析を行い易いといえます。また、通院透析は、原則として月14回までとなっておりますが、在宅血液透析では連日や隔日の透析も可能です。透析日数を増やすことで、十分な透析を「こまめ」に行うことができるので、体調の変動を少なくすることができます。

在宅血液透析のメリットと思われる点を列挙します。
1. 十分な透析を行い易い(緩徐+しっかり+こまめ)。
2. 家族や友人との時間を持ち易い。仕事も行い易い。
3. 通院の負担が大幅に減る。
4. 自分専用の透析用機器ができるので、透析液等の変更が行い易い(処方透析)。
5. 院内感染のリスクがない(インフルエンザ、感染性腸炎、肝炎、HIV等)。

在宅血液透析の留意点

在宅血液透析は基本的に安全な治療です。しかし、緊急時の対応等については、医療従事者が常にそばにいる通院血液透析より当然リスクが高くなります。よって、心疾患をお持ちの方で発作の可能性のある方、血液疾患をお持ちの方で止血等が困難となる可能性がある方、透析中の血圧の変動が大きい方等には通院透析の方が好ましいと思われます。また、御自宅での治療であるため、自己管理能力は非常に重要です。自己管理能力が十分でない方は、在宅血液透析はできません。

当法人の研修では、在宅血液透析に関わる手技はすべて患者さん自身で、一人でできるように指導しています。しかしながら、安全確保のため、自宅でお独りで在宅血液透析を行う事は禁止とさせていただいております。必ず付き添いの方が必要です。

血管穿刺とバスキュラーアクセス

穿刺は、患者さん自身がしなくてはなりません。御家族が、 医師、看護師、臨床工学技士の資格をお持ちの場合は、御家族が穿刺をすることもできます。自己穿刺に不安を感じ る患者さんは多くいらっしゃいますが、実際に自己穿刺がうまくいかず在宅血液透析の導入をあきらめる患者さんはまれです。自己穿刺に慣れると、患者さん自身が御自分専任の穿刺者となるので、失敗も少なく安定した穿刺ができるようになります。

人工血管を使用したシャントをお持ちの方でも通常在宅血液透析は可能です。しかし、穿刺や止血に十分な注意が必要です。また、人工血管感染等のトラブルの早期発見・早期対応が必要ですので、難易度とリスクは高くなります。動脈表在化は、自己穿刺、自己止血が極めて困難となると思われるため原則として在宅血液透析はできません。留置カテーテルでの在宅血液透析は可能ですが、人工血管と同じく感染対策が必要です。なお、通常のシャントであっても穿刺が極めて難しい方では在宅血液透析ができないこともあります。

介助者・付き添い

当法人の研修では、在宅血液透析に関わる手技はすべて患者さん自身で、一人でできるように指導しています。よって、一緒に研修を受け、すべての手技を理解してくれているような介助者は、いていただければより好ましいですが、必須ではありません。しかしながら、安全確保のため、必ず付き添いの方が必要です。付き添いの方の条件は、

1. 治療中常に患者さんと同一住宅内の比較的近い位置にいることができる。
2. 緊急時に救急車の要請やクリニックへの連絡ができる。
3. 出血時に圧迫止血ができる。透析機器の緊急停止ができる。
4. 患者さんが在宅血液透析を行う事に十分同意している。

の4点です。これらを満たしている付き添いの方が在宅血液透析を行うためには必須です。

在宅血液透析の費用

通院血液透析と同様に、在宅血液透析も健康保険が適応となります。このため、医療費については、「自己負担なし」または「所得に応じた一定額の自己負担(通常1~2万円/月)」となります。

しかしながら、自宅への透析関連機器の設置に関わる準備費用や在宅血液透析開始後の光熱費は患者さんの負担となります。

透析関連機器の設置に関わる準備費用としては、電源容量の増量(通常数千円程度)、電源コンセントのアース対応化(通常数千円~1万円程度)、透析装置専用のブレーカー設置(任意、通常1~2万円程度)、自宅透析室への給排水路整備(2万円~40万円程度:状況や選択する方法によって大幅に異なる)、水道の圧を調整する弁やポンプの設置(通常0円~10万円:水圧によって異なる)が挙げられます。それ以外に漏水(水漏れ)警報器等を希望で設置する場合は別途費用がかかります。

在宅血液透析開始後の維持費は、光熱費以外は通常不要です。光熱費は透析を実施する頻度等によって異なりますが、概ね在宅血液透析開始前の1.2~1.5倍となるようです。但し、年1回、排水管の高圧洗浄(1~2万円程度)が必要です。なお、機器の設置、機器交換、機器の撤去については通常費用はかかりませんが、引っ越し等の患者さん都合による設置場所移動は、原則として患者さんの費用負担で実施していただくことになります。

このように列挙すると在宅血液透析には多少お金がかかるように思えますが、通院にかかる費用は大幅に少なくなります。また、在宅血液透析によって仕事や生活が円滑に行えることによる経済的メリットは非常に大きなものです。この点も十分に考慮すべきでしょう。

導入前研修

在宅血液透析を始めるためには、十分な研修が必要です。 不十分な研修で在宅血液透析を始めることは大変危険です。当法人では、独自マニュアル等を活用し、最短の研修期間で在宅血液透析に移行できるようにしていますが、通常は少なくとも週3回2か月間の研修期間が必要です。状況によってはさらに研修期間が必要となることもあります。研修期間中は、週3回通院していただき、通院血液透析を受けながら研修を進めることになります。

在宅血液透析環境整備

どのような体勢(座位、臥位等)で在宅血液透析を行うかにより異なりますが、治療スペースとして2畳分程のスペースが必要です。また、物品の保管場所としてさらに2畳分程のスペースが必要です。電気は、60A以上に容量を増加させる必要がありますが、通常は大きな工事なしで可能です。また、できれば在宅血液透析機器専用のブレーカーがあることが好ましいです。水道及び排水については、在宅血液透析専用の配管を在宅血液透析機器のところまで工事をして持ってくることが好ましいですが、洗濯機用の水道や排水口を使用することにより、工事なしで行うことも可能です。

できるだけ室内の改修を行わない方法を選択することで、賃貸マンションでも在宅血液透析を実施することが可能です。実際に、賃貸マンションで在宅血液透析を行っている患者さんも多数おります。
但し、貸し主の方や管理組合等との調整を事前に十分に行い、トラブルが発生しないように注意する必要があります。

下見訪問/研修卒業・機器搬入・初回訪問

御自宅の環境整備が不十分であったために、いざ在宅血液透析を始めようとした時に在宅血液透析ができないという事態は避けなくてはなりません。そのため、研修が一定の段階に達した時点で、下見訪問を実施させていただきます。
下見訪問では、医療スタッフと機器メーカーの担当者が患者さんの御自宅に伺い、電気、給排水、機器の設置場所等につき詳細に検討を行います。この下見訪問により、患者さんの環境に合わせた十分な準備と適切なアドバイスを行うことができます。

研修が終了し、医療スタッフが患者さんに在宅血液透析を安全に行う能力があると判断した時点で卒業となります。通常は卒業後すぐに在宅血液透析に移行します。
初回の在宅血液透析日に、医療スタッフと機器メーカーの担当者が御自宅への機器搬入を行い、設置後初回在宅血液透析を行います。初回在宅血液透析時は、問題なく透析を開始できることを確認するまで医療スタッフが同席します。
2回目以降の在宅血液透析時は、患者さんと付き添いの方のみで在宅血液透析を行うことになります。

電話フォローアップ体制

相談事項や質問事項は通常在宅血液透析外来受診時に医療スタッフに対して行っていただきますが、急ぐ場合やトラブル発生時は電話で行っていただくこともできます。当法人では、24時間365日の電話フォローアップ体制をとっておりますので、いつでも安心して在宅血液透析を行うことができます。また、災害時にも患者さんとの連絡がとれるように、衛星携帯電話を2台常備しています。

物品配送と廃棄物処理

必要物品はすべて無料で患者さんの御自宅に配送しております(血液検査の容器や記録用紙等の小物品を除きます)。但し、配送時間の指定はできません。また、配送日の 御希望はお伺いしますが、必ずしも御希望に添えるとは限りません。 医療廃棄物については、針などの危険物以外はお住まいの市町村で回収していただくことが原則となります。市町村の回収がどうしてもできない場合は、当法人が回収を行います。針などの危険物は、外来時 に直接お持ちいただくことになります。

郵送血液検査

定期的な採血は御自宅で行っていただき、血液検体を郵送していただきます。これにより、在宅血液透析外来時には検査結果がすでに揃っている状態となり、最新の検査結果に基づいた正確な診療が可能となります。また、通院透析と同様に透析前後での採血が可能となるので、透析効率等の計算も可能です。採血した血液の処理に必要となる遠心分離器は無償で患者さんに貸与します。

在宅血液透析外来

在宅血液透析開始当初は2週に1回の在宅血液透析外来受診が必要ですが、その後の通院は、月1回の在宅血液透析外来受診のみとなります。このため、在宅血液透析外来は非常に重要です。当法人では患者さん1名あたり約40分~60分の予約枠をとり、十分な診療を行っています。なお、バスキュラーアクセス(シャント)のトラブルや体調変化への対応、貧血進行による造血剤の頻回投与等のために臨時の通院が必要となることがあります。また、通院日以外に、配送物の配送日、廃棄物の回収日、定期点検等の際には御本人または御家族が在宅していただく必要があります。このため、月に数日は予定を空けておいていただく必要があります。

問診、診察、在宅血液透析経過記録の確認、郵送検査の結果確認等を行い、在宅血液透析時の状況や体調の把握を行います。その後、状況に応じ、追加の検査(レントゲン検査、超音波検査、体組成分析装置検査等)を行います。それらの結果に応じ、透析設定の変更、内服薬の変更、造血剤等の投与を行います。また、手技の再研修を受けることもできます。

在宅血液透析のスケジュールは、研修時や在宅血液透析外来受診時に医師と患者さんが相談して決定します。当法人では、「緩徐」かつ「しっかり」とした透析を「こまめ」に行うことをお勧めしております。よって、まず、過剰透析にならない範囲で週当たりの透析時間を長くすることをお勧めします。その次に、その長くなった透析時間をできるだけ小分けにして実施することをお勧めしています。具体的には、週3~6回で、1回あたり3~6時間というスケジュールで在宅血液透析を行うケースが多くみられます。なお、十分な透析を常に行うようにこころがけていれば、もしバスキュラーアクセス(シャント)トラブルや体調不良、機器トラブル等で透析ができない日が発生しても、すぐに問題とはならないので、臨時の通院透析をしないで済む可能性が高くなります。

機器定期検査

3か月ごとに医療スタッフか機器メーカーの担当者が機器 の定期点検にお伺いします。当法人ではポータブルタイプの測定器を常備しておりますので、御自宅で透析液の調整を行うことができます。

なお、定期点検以外でも、機器のトラブルが発生した際は、機器メーカーのスタッフが修理にお伺いします。但し、機器のトラブルはすぐに修理できないこともあります。その場合は、臨時の通院透析を修理が完了するまで受けていただくこととなりますが、そのような事態となることは非常にまれです。

在宅血液透析安全対策

在宅血液透析は、緩徐に行うことで安全を確保しています。よって時間当たりの除水量(増加した余分な水分・塩分を1時間で取り除く量)は少なく設定する必要があります。短 時間で多くの除水を行うと血圧が低下し危険です。自宅では低血圧への対応も患者さん自身が行わなくてはならないので、血圧低下は避 ける必要があります。もし、食べ過ぎたり飲み過ぎたりしてしまった場合は、透析の時間や頻度を増やすことで緩徐にそれらを取り除きます。 常にゆとりを持ったスケジュールで透析を行うことが重要です。

万一、在宅血液透析中に体調不良等が出現した場合は、医療機関等にすぐに連絡をする必要があります。そのためにも付き添いの方の存在は重要です。携帯電話等を手元においておくことも勧められます。なお、当法人では「HHD用緊急通報システム」※を患者さんの御自宅に無償で設置しております。

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